稲築万葉散歩−山上憶良−   〜嘉穂郡稲築町〜
                                   2005年9月

  私の趣味は文学散歩だ。近郊の文学散歩の参考書としては、西日本新聞社の『ふくおか文学散歩』(轟良子)、海鳥社の『物語の中のふるさと』(読売新聞西部本社)、『福岡県万葉歌碑見て歩き』(梅林孝雄)、『福岡県の文学碑(古典編、近・現代編)』(大石實)がある。『福岡県の文学碑』は古典編は199年5月に出ていたが、近・現代編は最近出たばかりだ。

 8月に志賀島の万葉歌碑を見たので、福岡県内の万葉歌碑に関心を持ち始めた。福岡県の万葉歌碑は太宰府周辺に多いが、これは座禅のついでに回ろうと思っている。手近なところでは甘木から峠を越えた稲築町に万葉歌碑がいくつかあるので回ってみたいと思っていた。
                                              

風情のある稲築公園


 週末の天気は大気が不安定で山に登るのにはどうかという感じだった。それで稲築町の万葉歌碑巡りに一人で出かけることにした。この日は昼前から出発した。白坂峠を越えて桂川町に出た。この道の運転は気持ちが良い。地元のスーパーで弁当を買って食べた。新鮮でおいしかった。地図を見ながら稲築町に向かう。

 まず稲築公園に行く。ここは高台の上にある。稲築文化協会が昭和49年に建てた山上憶良の記念碑がある。稲築町内の万葉歌碑は全て山上憶良のものだということである。山上憶良は726年から6年間筑前国守を務めている。728年7月に当時の嘉摩郡役所に立ち寄っている。この稲築公園は初秋のたたずまいでとても感じの良いところだった。散策にも良い。

銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも

 山上憶良の子供を愛する歌である。とても有名な作品である。

 次に、鴨生公園に行く。ここはグラウンドや体育館があり、ちょうど衆議院選挙の投票が行われていた。ここには山上憶良の歌碑が3つもある。この他にモニュメントもある。入口に案内板がある。グラウンドで少年野球の練習が行われていた。正面に嘉摩三部作の碑がある。

嘉摩三部作

  惑える情を反さしむる歌

ひさかたの天路遠しなほなほに家に帰りて業を為しまさに

  子等を思う歌

銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも

  世間の住り難きを哀しぶる歌

常磐なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも

神亀五年七月二十一日嘉摩郡にて撰定しき
筑前國山上憶良

 鴨生公園には犬養孝の揮毫による歌碑もある。

山上臣憶良罷宴歌一首

憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母もわを待つらむそ

春さればまづ咲く宿の梅の花獨り見つつや春日暮らさむ

 最後に鴨生憶良苑を探すが、案内板がなく、探すのに苦労した。なんとか見つけるが駐車地を探しているうちに、郡役所址も発見した。この付近は筑豊の古い家並みが残っていた。鴨生憶良苑は鴨生在住の金丸嘉与子さんが自宅の庭に作ったものである。とても風情のあるところだった。広い庭に5基の歌碑があった。

  貧窮問答歌

世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

  秋の野の花を詠める二首

秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花

萩の花尾花葛花瞿麥の花女郎花また藤袴朝貌の花

  七夕の歌

彦星の妻迎へ船こぎづらし天の河原に霧の立てるは

  敢えて私の懐を布べたる歌

吾が主の御霊賜ひて春さらば奈良の都に召上げ給はね

万葉集の山上憶良の短歌で有名なものは次の三首だろう。最初の二つは子供に対する愛情が感じられる普遍的な作品である。三番目は山上憶良が巡視中に極貧に喘ぐ筑豊の農民達を見て作ったのだろうかと想像される。

しろがねもくがねも玉も何せむにまされる宝子にしかめやも
憶良らは今はまからむ子泣くらむそれその母もあを待つらむぞ
世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

 稲築町の3カ所の万葉歌碑を見て回った。どこも落ち着いた感じのいいところだった。秋らしいそよ風も吹いていた。帰りに嘉穂の湯に寄り、マッサージをしてもらった。幸せないい一日だった。
 文学散歩はそれほど時間がかからない。万葉集の碑は福岡県内にはたくさんあるので今後も見て回りたいと思う。海鳥社から『福岡県の文学碑(近・現代編)』(大石實)が出たので、夏目漱石や近代の歌人、俳人などの文学散歩もしたいと思う。 

稲築公園の歌碑
「銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも」

鴨生公園のモニュメント


鴨生公園の歌碑
「春さればまづ咲く宿の梅の花獨り見つつや春日暮らさむ」

鴨生公園の歌碑
「憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母もわを待つらむそ」

鴨生公園の歌碑
嘉摩三部作


郡役所址の歌碑
「しろがねもくがねも玉も何せむにまされる宝子にしかめやも」

鴨生憶良苑1


鴨生憶良苑2


鴨生憶良苑歌碑群




鴨生憶良苑歌碑
「彦星の妻迎へ船こぎづらし天の河原に霧の立てるは」


鴨生憶良苑歌碑
「 秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花」
「萩の花尾花葛花瞿麥の花女郎花また藤袴朝貌の花」


鴨生憶良苑歌碑
「世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」




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