東京文学歴史散歩 〜夏目漱石「三四郎池」など〜

                                               

明治神宮南参道の鳥居

 4時半に目が覚めた。東京の日の出は福岡よりも1時間早い。外を見ると曇っていた。天気は下り坂で午後は雨になるようだ。ホテルの朝食はバイキングだが、食事時間が6時半から10時までと幅がある。ユリが6時に起きたので、朝食前のウォーキングということで、明治神宮と皇居に出かけた。

 6時半にホテルを出る。品川駅から山手線で原宿駅まで。原宿駅の前は竹下通り。この裏が明治神宮だ。明治天皇・昭憲皇太后を祭っている。南参道から本殿まで二人で歩くが、距離が長いのに驚く。早朝なので人が少なく、清閑な気持ちになれる。

 この南側が代々木公園。ここには東京オリンピック選手村があった。後に受験生村になり、私も30年ほど前の大学受験の際に滞在したことがある。

 明治天皇といえば、夏目漱石『こころ』の「明治の精神」が思い出される。「私」は「明治の精神に殉死」した。明治神宮の70万ヘクタールの杜の中を歩きながら『こころ』の中で、明治天皇が病気になるところ、亡くなるところ、御大葬の夜に乃木大将が殉死するところなどを思い浮かべ、昭和の終わりの頃の記憶と併せて感慨に耽っていた。

 本殿に参った後は北参道から代々木駅まで歩いた。ユリが空腹を訴えたので、駅のコンビニでパンを買って飢えをしのいだ。代々木駅からは中央線経由で東京駅に。8時過ぎの東京駅の前は出勤途上の人たちであふれていた。東京人の気合いの入った歩き方にユリは目を見張っていた。

 東京駅からオフィス街を抜けて西に進むと、石垣と壕に囲まれた広大な敷地が広がっていた。江戸城跡の皇居だ。皇居を一周すると2時間かかるという。時間の都合もあるので、外苑を散策した。

 桜田門を通り、楠木正成銅像を見たが、皇居の周りが歩きやすく整備されているのに感心した。ジョギングしている人もいた。都市生活者はウォーキング、ジョギングに飢えているので、都内にはこういう風に整備されているところがいくつもあるようだ。

 有楽町駅から山手線に乗って品川に帰ったが、有楽町駅の近くで報道陣がシャッターチャンスを待っている光景に出会った。あれはいったい何だったのか謎が残る。ユリは興味津々で見ていきたかったようだったが、制止して帰った。

 ホテルに戻り、9時半から朝食バイキング。明治神宮で1時間、皇居で1時間歩いた後なので、おいしく食べた。スパゲティが特においしかった。時間が遅いので混雑していなかったのもよかった。

 ホテルの部屋で1時間ほど休んだ後で、東京タワー見物に出かける。遠くから眺めるのと違って直下から見る東京タワーは壮観だった。

 東京タワーの中は色々な施設があった。「冬のソナタ」の写真展も開かれていた。二階にはサンリオの店があり、日本全国のキティちゃんが五百種以上も並べられていた。旅行に行ってその土地のキティちゃんを収集する趣味があるユリは喜んでいた。

 次は三四郎池。本郷三丁目で下車して東京大学まで歩く。東大の構内に入るのはもちろん初めてだ。守衛さんに許可を取って中に入る。東大の構内は人が多い。東大の学生ばかりではないようだ。民青の集会も開かれていた。35年前の東大紛争で有名になった安田講堂を見る。

 三四郎池は予想以上に風情のあるところだった。池の周りに遊歩道が整備されている。木製のベンチでは大学生のカップルが待ち合わせしたりしていた。ユリと私はこのなかを歩き回った。百年前の夏目漱石『三四郎』の世界がよみがえってくるような空間だった。

 本郷周辺は雰囲気のいいところだ。ヨシキやユリが東大はともかく首都圏の大学に行けば私も度々この付近に来ることができる。ユリは東大の構内に入ったので少しは賢くなっただろうか。

 渋谷のディズニーストアに行く。渋谷駅には忠犬ハチ公がいるはずだが、分からなかった。南口のモヤイ像の前で写真を撮った。渋谷駅で降りた後、方角が分からずに苦労した。私は店の前で小一時間待っていた。

 今日は電車の乗り継ぎが多かった。地下鉄などではエスカレーターに乗るが、ユリは階段を駆け上がり、エスカレーターの私を追い越しては喜んでいた。子どもは体力があると感心していた。

 品川に17時半に戻り、昼食を取っていなかったので、マクドナルドのハンバーガーやポテトを買ってホテルの部屋で食べた。朝食が遅くてバイキングでたくさん食べたためにお腹が空かなかったのだろう。

 夕食は品川駅のデパ地下でお総菜を買ってきてホテルの部屋で食べた。ローストビーフやカツ丼などなかなかおいしかった。

 ユリに「今日はどこが楽しかった」と聞くと「街は人を気にしなくてはいけないので、人がいないところも楽しかった」と答えていた。明治神宮、皇居、三四郎池もユリは喜んでいたことが分かってなんとなくうれしかった。

 今日は横浜の妹がユリを原宿の竹下通りに連れて行ってくれることになっている。私はその間に一人で何をしようかあれこれ考えた。東京には夏目漱石の他、樋口一葉、松尾芭蕉、小泉八雲の足跡などいろいろある。神田の古本屋巡りも魅力だった。

広い明治神宮をあるく


皇居の桜田門付近


皇居の濠


楠木正成像


下から見上げる東京タワー


東京タワー内の「冬のソナタ」展


東京タワー内の500種のキティちゃん


東大赤門


三四郎池1


三四郎池2


渋谷駅のモアイ像

品川の高層ビルのクレーン

お茶の水小学校の夏目漱石記念碑


神田の古本屋街


神田の古本屋1


神田の古本屋2


 今日は朝の散歩ということで、品川周辺を歩いた。高輪公園には一人で寝泊まりしている人もいた。路地を歩くと三階建ての家が目立つ。土地がないのでこうするしかないのだろう。数十階建ての高層ビルの屋上のクレーンが目についた。あんなものをどうやって持ち上げたのだろうと不思議に思うが、クレーンの下を歩くのは恐怖を感じる。道に迷ってしまったが、ユリの方向感覚がいいので無事にホテルに帰ることができた。

 品川駅10時待ち合わせの予定だったが、妹は電車事故のため遅れるとのことで、待ち合わせを原宿に変更する。11時ぐらいになりそうとのことなので、ユリと私とでキディランド原宿店に行く。ここの4階にピチレモンショップがある。ユリが愛読しているローティーンの月刊誌「ピチレモン」関係のグッズが並んでいる店だ。この店を出る頃には雨になり、原宿駅に戻るのに時間がかかった。人混みの中で傘を差すと移動が大変だ。

 妹にユリを託して私は一人観光に出かける。時間が3時間しかないので目標を神田の古本屋巡りにしぼることにした。山手線で周回し、御茶ノ水駅下車。子供のころ見ていた「鉄腕アトム」のお茶の水博士を連想した。

 傘を差して明治大学や日本大学病院の横を通りながら歩く。神田神保町には古本屋だけでなく、三省堂や岩波書店、書泉グランデなどもある。古本屋の雰囲気は何とも言えない。何軒か見て回った。岩波の新古典文学大系が一冊500円で並んでいる。買いたいが輸送が大変なので手が出ない。知的興奮を覚えた。

 ガイドブックに載っていたカフェテラス古瀬戸でカレーライスを食べる。城戸真亜子の壁画を眺めながらの食事だった。

 お茶の水小学校の夏目漱石記念碑を見に行く。江戸っ子の漱石はお茶の水小学校の前身の錦華学校に通っていたことがある。東京には、早稲田、神楽坂、浅草、両国、神田、小石川、白山、本郷、上野、千駄木、根津など漱石の足跡や作品の舞台が数多くある。中央公論新社の井上明久『漱石2時間ウォーキング』という本を買ったが、東京の漱石文学散歩は底がとても深いようだ。

 妹からメールが来て品川に戻るとのこと。ユリは予定の原宿のお店を短時間でクリヤーしたらしい。私も品川に戻る。喫茶店で待ち合わせてしばらく話した。妹と別れて羽田空港に戻り、土産を買ったりして飛行機を待った。

 帰りの飛行機は乱気流のため揺れたが、予定通りに福岡空港に着いた。セレナで帰途につき、20時半には帰宅した。

 司馬遼太郎「街道をゆく」には首都圏関連のものが何冊かある。『赤坂散歩』『本郷界隈』『本所深川散歩・神田界隈』『横浜散歩』『三浦半島記』などを旅行の前に読んだ。これは旅行を楽しむ上で良かったと思う。

 朝日新聞社から「週刊街道をゆく」という雑誌が出ている。『街道をゆく』をビジュアルに解説してある雑誌だが、眺めて楽しい。今年一年間で50冊発行予定だ。これも旅行の参考書として楽しむことができる。ここに出ているようなところに次々行けたら幸せだと思うが、夢を膨らませるということも楽しいことだ。東京にはまた出かけたいと思う。大満足でリフレッシュすることができた。日程の都合をつけることはなかなか大変だったが、得たものは大きかったと思う。心の洗濯になった。

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